バビルサの特徴的な形態
バビルサの形態学上の最大の特徴は、上下の顎から突き出た2対の巨大な牙です。
それは雄バビルサのシンボルです。
【身体サイズ】
スラウェシ島に生息するスラウェシバビルサBabyrousa celebensisは、3種のなかで中間のサイズです。
雌雄でからだのサイズに違いがみられます。雄では、体長約100cm、肩高65-80cm、体重は100kgに達することがあります。雌では、雄の7-8割程度です。 からだの割に、四肢は細長く、尾も長めです。
【犬歯が発達した牙】
雄のバビルサだけに犬歯が巨大に発達した牙があります。下顎の牙は、イノシシと同じように口内から斜め上に突き出ています。しかし、上顎の牙は決して口内には現れず、眼と鼻の間の皮膚を貫いて上方に顔を出し、後方に湾曲します。これは、上顎の牙が上向きに口を開いている歯槽から成長した結果です。つまり、上顎の犬歯だけが、反転した歯槽(上下逆向きになった歯槽)から生えてくるので必然的に吻の皮膚を突き破るのです。上下の牙ともに、咀嚼運動に関わりません。
成獣では、下顎の牙を木の幹や岩に擦りつける、いわゆる「牙かけ」行動、あるいはマーキング行動、さらには雄同士の戦いの時に、牙が折れることがあります. バビルサの上顎の牙は見た目ほど頑丈ではありません。
写真は、中部スラウェシ州の住民が所蔵していたスラウェシバビルBabyrousa celebensisの頭蓋骨を現地で撮影したものです。
【稀に上顎の牙が額に突き刺さることがある】
『ゴールドスミス動物誌』のなかに、雄バビルサの上顎の牙について次ぎのような記述があります。「うしろにむかって曲がり、時には先端が眼の方にむかい、しばしば眼の中へ伸びて命とりになってしまう」と。一般に、「上顎の牙の先端は巻き込むので、眼や額には刺さらない」と言われてきましたが、ジャワ島のスラバヤ動物園には、『ゴールドスミス動物誌』を実証するようなスラウェシバビルサBabyrousa celebensisが飼育されていました。
そのバビルサは、右側の上顎の牙がやや左後方に湾曲しながら成長し続けて、前頭骨に陥入してしまいました。つまり、その上顎の牙は自分の皮膚を二度も貫いたことになります。写真は、ジャワ島のスラバヤ動物園が所蔵するスラウェシバビルサの頭蓋骨を特別に許可をいただいて現地で撮影したものです。
【5本の牙を持つバビルサ】
1970年代の初頭から、ジャワ島のスラバヤ動物園ではスラウェシバビルサBabyrousa celebensisの繁殖に成功し、その繁殖個体はインドネシア国内の動物園をはじめ、欧米の動物園に移されて飼育されてきました。今のところ目立った問題は現われていませんが、長年の集団飼育の結果、近親交配が進んでいると考えられています。
そのため、1998年、スラバヤ動物園はスラウェシ島のマナドManado近郊のトモホンTomohonから野生のスラウェシバビルサを導入しました。そのうちの1頭の雄は、何と5本の牙をもっていました。上顎の右犬歯が付け根から2本一緒に寄り添うように生えています。
その先端の形から判断して、生息地で牙が一度折れてしまったようです. 捕獲以前にその雄の身に何が起こったのかは不明です。写真は、ジャワ島のスラバヤ動物園に導入された雄のスラウェシバビルサを特別に許可をいただいて撮影したものです。